ママみててね Vol.108

手と身体を使う環境

今年も昔教えていた生徒たちが大学へ、社会へと巣立っていきました。15-20年前の、この子たちが幼児のころは、クラスの中でコンピューターを使っている幼稚園が増えてきた頃です。ご両親の中にも、小さい間にコンピューターを使える子供にしてほしい、キーボードの使い方を子供たちに教えてほしい、と言われる方も増えていきました。

私なりに考えて、クラスにはコンピューターは置かないことにしましたが、いつも頭の隅で、「この子たちが大きくなるころには、鉛筆やペンを使って文字を書くということはなくなるんじゃないだろうか」という疑問もありました。

さて、いよいよその子たちが大きくなったわけですが、幼児の間に一生懸命自分の手を使って書いたり考えたりした子供たちは、たとえ小学校の半ばから、タブレットとインターネットを使って宿題をするようになっても、とても柔らかい頭の持ち主に育ちました。中でもエンジニアや数学、物理が専門の学生たちは、プロジェクトを提出するときはさておき、考えるときはやはり紙に手で書きながら考えるんだそうです。音楽や芸術方面に進んだ子も、手や身体全体を使ってアイディアを生み出すということです。

今コンピューターに関しては、私より数千倍もよくできる子たちばかりですが、人間の脳の基本にある「物事を理解して身に着ける」という時期に自分の手と身体を使う環境を作ってあげられたことは、間違いではなかったようです。

<アブラモフ 羊子>
京都生まれの京都育ち、同志社大学卒業。Concordia University 幼児教育学修士。2000年Golden Apple Award Finalist。2001年Kohl/McCormick Early Childhood Teaching Award受賞。現在モンテッソーリ・ランゲージ・アカデミーでDirectorを務める。バイリンガル教育のプロフェショナル。