ママみててね Vol.118

幼児の感覚経験

今から約110年前、マリア・モンテッソーリが初めてイタリアの孤児の施設を訪れたとき、子供たちは床に落ちたパンくずを拾っては指で触っていたそうです。それを見たモンテッソーリは、子供たちはお腹が空いてパンくずを拾っているのではなく、パンくずの触感を楽しむためにそうしているのだと気付きました。こういった子供たちの観察から、「子供は感覚器官を通して学ぶ」というモンテッソーリ教育の基本が出来上がりました。

いろんな感覚的な刺激に飢えていた110年前の孤児院の子供に限らず、現代の子供たちの中にも感覚的な刺激の足りない子、または、アンバランスな刺激しか得られずに育っている子をたくさん見かけます。

現代の生活では、コンピューターの発達でどうしても視覚と聴覚のみに頼った学習が中心になりがちです。でも、幼児は視覚と聴覚だけではなく、触覚、味覚、臭覚といった他の感覚もバランスよく刺激する環境を必要としています。幼児をよく観察してみると、なんでも手や口で触れたがったり、匂いを嗅ぎたがったりしませんか?子供たちは、そうした感覚器官を使いながら自分の周りの世界の秩序を学んでいこうとしているのです。自分の周りの世界の「秩序」は、最終的には、数や文字、社会性などにつながります。

感覚には他にも平衡感覚、温度、圧力など細かいものがあります。幼児期はこういった感覚器官を研ぎ澄ます絶好の時期です。大人になるとどうしても視覚と聴覚だけに頼ってしまいがちですから、そうなる前におうちでも意識して、いろんな感覚的経験を取り入れてあげてください。

<アブラモフ 羊子>
京都生まれの京都育ち、同志社大学卒業。Concordia University 幼児教育学修士。2000年Golden Apple Award Finalist。2001年Kohl/McCormick Early Childhood Teaching Award受賞。現在モンテッソーリ・ランゲージ・アカデミーでDirectorを務める。バイリンガル教育のプロフェショナル。