日本語を学んでいる現地の高校生と日本語で語る
昨年の11月30日(木)、シカゴ郊外のオークパークにあるOak Park and River Forest High Schoolにて、ジャズピアニストの大江千里氏が講演会を行った。この高校は、文豪アーネスト・ヘミングウェイを輩出した事で知られる、全校生徒約3,300人のマンモス校だ。今回の講演会は、日本語の授業を選択している生徒達200名に向けて行われた。
まず初めに、大江氏が日本でシンガーソングライターとして活躍していた頃のコンサート映像を鑑賞した。90年代に日本武道館で行われたコンサート映像。テンポの良い音楽と歌、それに合わせて軽快なダンスを踊る、ポップスター時代の大江氏の姿がそこにあった。生徒達も音楽に合わせて、楽しそうに体を揺らしながら鑑賞していた。
コンサート映像を見終えてから、大江氏の講演が始まった。ピアノが好きだった少年時代、作詞作曲を始めた頃の話、とんとん拍子に23歳で歌手デビューが決まった事など、生い立ちからシンガーソングライターとして活躍していた時のエピソードを、時々ピアノを弾いたり歌ったりしながら語った。そして人生の大きな転機、ジャズピアニストを目指すきっかけとなった話。シンガーソングライターとして順風満帆だったが、どこか満たされていない気持ちもあったそう。そんな時に愛犬・母・友人の死を立て続けに体験し、「人生は短く1度しかない。後悔しないよう、やりたい事をやらないと」と奮い立ったという。その後所属音楽レーベルを退社し、かねてより興味のあったジャズを学ぶため、47歳にして単身ニューヨークの音楽学校へ入学。若く才能溢れる同級生たちに刺激を受けながら4年半かけて卒業し、ジャズピアニストの道を歩み始めた話を生徒達は食い入るように聞いていた。
講演会終盤には、大江氏と生徒達の合唱が披露された。大江氏のヒット曲「YOU」を生徒達が練習しており、大江氏のピアノ伴奏に合わせての合唱。日本語の発音がなかなか上手で、中には振り付きで楽しそうに歌う生徒などもおり、たいへん盛り上がった。
大江氏が数名の生徒に向けて日本語で「将来の夢はなんですか?」と質問したが、まだ16~18歳の高校生にはなかなか難しい質問だったようで、ほとんどの生徒が「分かりません」「まだ決まっていません」という答えだった。しかし、今回の講演を聞いたことで、彼らの夢の選択肢は大きく広がり、まずはチャレンジしてみようという気持ちが膨らんだのではないだろうか。「失敗してもいい、挑戦するのに遅すぎるという事はないし、今が一番幸せ」と少年のような眩しい笑顔で語った、57歳の大江氏がとても印象的な素晴らしい講演会だった。まだまだ夢の途中と言わんばかりに快進撃を続ける大江氏。今年の初夏にジャズピアノCDの発売予定との事。またシカゴでお目にかかれる日がとても楽しみだ。
(文・写真 神戸恭子)