【第274回】メキシコ

治安の悪い街をウロウロ忍耐の旅

 かつてメキシコ・シティと工業都市モンテレイに一年強駐在員として住んだことがあり、国の政情や文化はおよそ熟知しているつもりだった。65歳を過ぎたばかりの若きシニアが現役を引退し、後輩がその後を引き継いだメキシコ・シティに出かけた。宿は後輩の家と決め、自由な立場で旅行気分を味わおうと。1000万人を超すメキシコ・シティは大都会、道は狭いし車は大渋滞だ。空港からは安全な港内タクシーを使うが良い。市内見学は乗り下り自由な屋上遊覧バスが便利だ。後輩は地下鉄、バスは乗った事がないという。社用車とかかりつけタクシーを利用するだけ、流しは決して使わない、との安全第一主義だ。
 久方ぶりの一人旅、土地感には自信があり、周辺の街をうろうろした後、地下鉄で郊外へ。バスで6時間の州都、オアハカのモンテ・アルバン遺跡を目指した。紀元前400年頃から700年に渡り栄えた街だ。中央アメリカ最古、マヤ文明が最盛期を迎える前に衰退したサボテコ族の遺跡だ。踊る人々のレリーフがあったそうだが今はなく、メキシコ・シティの人類学博物館に保存されているという。踊る人々とは捕虜の拷問された死体で、口から血をほとばしらせている裸体像だ、と。他に45度傾斜で建てられた天体観測の天文台もある。高台から眺めると石材の塊がぱらぱらと散撒した感じで、神殿、宮殿もあるのだが、石壁と石段のシンプルな遺跡群だ。

テオティワカン遺産の全景

 メキシコの世界遺産は規模と内容でテオティワカンに勝るものはない。ここはアメリカから訪問してきたワイフと石段登りを楽しんだ。これらの遺跡を見て思ったこと。歴史は語る。人類は知恵を出して新しい社会を創生するが他方、権力で人民を苦しめる非道行為もやる。人類学博物館も3回訪問したが、問題意識を持って再度見学する必要を感じた。

テオティワカン、太陽のピラミッドに登る人々

 オアハカに1泊してまた長距離バスでメキシコ・シティに帰ったのだが、なんと友人の家が判らず右往左往した。警官にも2回聞いたがこれは愚かだった。彼らは田舎から首都警備のため動員され、ただ立っているだけ、ロボットのような警官だった。迷った原因は地下鉄の出口を間違えたこと。北口と南口を間違えたせいで45分迷い、宿に着いたのは夜9時20分だった。が、それでも無事着いたのはかつての滞在体験が役立ち、危険な街の夜の行動を支えたからだろう。相変わらず市内の治安は悪いのだが、怖い例を強調して話す嫌いもある。私は体験者、警官を含めて6か月で3回脅されたり掏られたりしているのだ。だが、その体験に怯えて行動をしないのでは筆者の旅ではない。用心しながらも瞬時に頭を働かせ次の行動に移るだけだ。

文:小川律昭

筆者プロフィール
<小川律昭(おがわただあき)> 86歳
地球漫歩自悠人。「変化こそわが人生」をモットーとし、「加齢と老化は別」を信条とし、好奇心を武器に世界を駈け巡るアクティブ・シニア。オハイオ州シンシナティと東京、国立市に居所を持つ。在職中はケミカルエンジニア。生きがいはバックパックの旅と油絵。著書は「還暦からのニッポン脱出」「デートは地球の裏側で!夫婦で創る異文化の旅」。

<小川彩子(おがわあやこ)>80歳
教育学博士。グローバル教育者。エッセイスト。30歳の自己変革、50歳過ぎての米国大学院博士過程や英・和文の著書による多文化共生促進活動は泣き笑い挑戦人生。「挑戦に適齢期なし」を信念とし、地球探訪と講演・発表の日々。著書は「Still Waters Run Deep (Part 1) (Part 2)」「突然炎のごとく」「Across the Milky Way: 流るる月も心して」ほか。
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