【第278回】中国

新疆ウイグル自治区、ウルムチ、トルファンは警察官だらけ

パスポートが無い!
いつものごとくガイドブックは粗読みしただけ。特に中国は4回目だし行先は田舎街だと高をくくって北京行のAir Chinaに。北京の乗換口は凄い行列で、外国人乗換出口に並び泡を食った。空港なのに英語は通じない。出国書類が必要と判り、記入するためにせっかく並んだ列を離れてやり直し。書類の記入にあたって妻が「パスポートがない!」と。妻が持っていたのは私のパスポート。どこでなくしたのか。最初の外国人乗換口で案内人に渡して返してもらわなかったのか。何か質問するだけでパスポートを要求する国だ。再度案内人に尋ねに行ったときは人が変っていた。パスポートが手元から消えたことは事実だ。困った。どうする?再発行には首都北京でさえ5日間はかかるだろう。何十年も旅をすれば不注意で紛失することもあって不思議ではない。「これも経験、仕方がないか?」と諦めがついた頃、「最後にもう一度」と手元を調べたら自分の腰バックの中に妻のパスポートが入っていた。どうして妻と私のパスポートが入れ替わったのか。待つ国、中国の玄関口での「待つ洗礼」と我々の旅慣れがもたらしたドタバタだったが、悲観、諦観、楽観がシニアの常ではある。チケットを買った旅行社の言葉によれば「中国は待ち時間が幾らあっても余るということはない」と。その通りだった。ここで無事トランスファーするのに3時間以上待ち、もたもたし、やっとウルムチ行き国内線に飛び乗った。

どこに行ってもセクリティーチェック体制
人口250万人の街ウルムチは田舎どころか緑の街路樹に覆われた近代都市、大きい交差点はロータリーではなく地下道だ。出入り口には交番を兼ねた検問所で身分証明書を要求され手荷物検査がある。公共の建物はもちろん小さな商店以外は皆チェック体制があり検閲制だ。大きいバス停も降り口で検問だ。団体観光バスも外国人は入口で検問、パスポートの点検と記録があり、列を作って待たされる。現地人は身分証明書のみだがライターが沢山取り上げられていた。深夜でも主要道路はパトカーがゆっくりパトロールしているのがホテルの窓から目に付くが世界でも見かけなかった光景だ。そのせいか街もきれいで感じがよい。が、とにかく街中が警官だらけだ。その経費をどう賄うのか。一党独裁制だから出来るのだろう。監視体制の社会は旅行者をうんざりさせる。

英語はしゃべらずスマホに答えさせる若者
「この地でスマホを買って使ったら!」とホテルで突然現れた腹の出た親父に言われた。ホテル予約ウェブサイトでトルファンの宿を予約し、宿泊は出来たもののレセプションで英語は通じず観光出来るか見通しがたたない。自称社長というあやしい女性がスマホの画面を見せられ、そこには英文で「ある人を紹介する」、とあった。部屋に荷物を降ろして階下に下りたら、流暢な日本語を話す人を上記の女性から紹介された、その人はまるで腹の出たポンポコ狸親父に似ていた。彼は観光あっせんのブローカーがトルファン郊外にある「西遊記」に登場する火焔山周辺と世界遺産の交河故城(シルクロードの一部)に行け、と言った。1人700元(1元=17円)。観光地に着いたら入園料は別払い、各場所で30元、50元と何度も徴収されると結構な金額だ。1カ所で払わされたあと妻が「ベラボーに高いから中止します!」と電話し、ホテルに戻ったら若者と4人組で1日観光に切り替わった。出直しで英語を話す良い仲間と出発出来た。 入園料すべてをまとめて若者がスマホで支払い、我々はその若者へ 。スマホがあれば試算、精算が即座にできる。通訳なしで翻訳もできる。英語で聞いたことを推察して現地語で解釈し、答えは英文に仕上げて「これ」と言ってスマホの画面を見せるのだ。乗合いバスの中で降りる場所を聞いたら、答えがスマホに英文で明示された。誰も英語を話さないが皆がスマホを持ち、これぞ利便性の中国なり。だが、現地の団体観光バスに乗ったら昼食を競争で食べ、普段の生活が見え見えだった。

新幹線にも乗った!
ウルムチからトルファンまで1時間、停車駅なし、最高速度194㎞だった。料金は1人49元。窓からの通過風景は荒野で200カ所近い風力発電装置が設置されていた。車両は形状、色調、構造とも日本と同じだが中国製。便器のテフロンコーティング下部が剥げていた。品質がよくないと判る。約半世紀前、ある自動車関係の会社が車に使う資材購入目的で中国に訪れていて、「鳥の羽とウエス(ぼろ切れ布)以外何も輸入するものがない!」となげいたと言うが、中国の発展は素晴らしい。言論に自由があり、言葉さえ通じれば、良い国だと思うのだが。

(時計回り)中国の新幹線、妻と交河故城、西遊記にも登場する火焔山にて、トルファンで1日行動を共にした、英語の達者な若者たちと交河故城にて

文・写真/小川律昭

筆者プロフィール
<小川律昭(おがわただあき)> 86歳
地球漫歩自悠人。「変化こそわが人生」をモットーとし、「加齢と老化は別」を信条とし、好奇心を武器に世界を駈け巡るアクティブ・シニア。オハイオ州シンシナティと東京、国立市に居所を持つ。在職中はケミカルエンジニア。生きがいはバックパックの旅と油絵。著書は「還暦からのニッポン脱出」「デートは地球の裏側で!夫婦で創る異文化の旅」。

<小川彩子(おがわあやこ)>80歳
教育学博士。グローバル教育者。エッセイスト。30歳の自己変革、50歳過ぎての米国大学院博士過程や英・和文の著書による多文化共生促進活動は泣き笑い挑戦人生。「挑戦に適齢期なし」を信念とし、地球探訪と講演・発表の日々。著書は「Still Waters Run Deep (Part 1) (Part 2)」「突然炎のごとく」「Across the Milky Way: 流るる月も心して」ほか。
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