アメリカの学校ABC

CJC教育セミナー・アメリカの学校ABC

去る10月13日(土)、CJC会議室で教育セミナー「アメリカの学校ABC」が行われた。講師はシカゴで活躍している、安納恵子氏(Ph.D. DePaul University, 日本語教師)、今村加代氏(MA, District 54 Special Education 教師)、Corban Megumi Sanchez氏(MA, DePaul University 教育アドバイザー)による3部構成の内容でアメリカと日本の教育の違い、LD(Learning Disorder)について、進路について最新情報を参加者に話した。

A.安納先生によるアメリカの教育ABC
時間をふたつに分けて、第1部は3人の講師によって問題提起、題2部は3つの分科会に分かれて質疑応答を行った。安納講師はアメリカの教育ABCと言う題でアメリカの教育と日本の教育を比較し、日本の親が誤解しやすい問題について話された。日本では今日現場の先生を尊敬のあまり、しばしば「お任せします。よろしくお願いします」とわが子の教育を先生に預けてしまうが、「お任せしますと言ったのだから、何でも学校が決めてしまってよいと言ったはず」と受け取られる可能性があるので、自主性をもって学校と対峙しなければならない、と教えられた。親は税金納税者なのだから自信をもって学校と話し合い、後からの証拠として記録を残すように忠告され、なるほどと納得。何歳までが義務教育なのかはっきりわからない、とう質問が出されたが、17歳になると義務教育の義務から解放される、つまり17歳の誕生日からは就学の義務から解放される。とこらがお隣のインデアナ州では18歳まで就学の義務がある、まさにアメリカ合州国(United States)で州ごとに法律が異なる、だから就学の義務年限に誤解が生ずるのはやむを得ないのだ。イリノイ州では18歳までは「未成年マイナー」であるからお酒も飲めない、扱えない、未成年であるから責任はすべて親にかかってくる、家でぶらぶらされたら大変だ、「ああ厄介な17歳さま」なのです。それでも親の愛と努力でなんとか高校を卒業してくれたら御の字であるが。

B.今村先生の登場
多くの生徒は親の期待に応えて高校4年までたどり着く。もう一息である。ところが中には親の期待に沿えない子供もいる。小学生のとき日本からやってきて現地校に編入。何年かしてほかの子供と比べて英語の出来が悪いのに気が付いた。バイリンガルだからよくあることだ。気にしない気にしない。でもほかの科目も思うように伸びない。だんだん心配になって来た。友人に相談したら、「もしかしたらLD(Learning Disorder)じゃない、担当の教師と話し合ったら」と言うことになった。担当教師と話し合うと何月何日XX部屋に夫婦で来てくださいと言われた。当日になると夫は仕事の都合が悪くいけないから母親の自分だけで出頭すると、学校のSpecial Education の関係教師スタッフがずらりと席についている。「しまった、どうしよう」と戸惑ってもここまで来てしまってはどうしようもない。だから今回のようなセミナーに出て予防接種、心の準備をしておかなければならないのです。そしてここからはLD専門家の今村加代先生の登場である。
関係者は全部で9人いてCare Manager, Resource Center Teacher, School Psychologist, General education Teacher, Social Worker, Special Language Teacher, Autism Specialist, and Nurse 総勢9人もいる。このチームがたった一人の生徒がLDの教育を受けることができるかどうか、評価するチームだった。お金がかかるプログラムなのである。アメリカの公立校K-12は住民の住宅税(property Tax)で賄われている。 今村先生の教育学区は大きな商店街を抱えているから良い教育の環境を準備することができる。評判が高く日本から入学する児童が後を絶たない。いよいよ始まったLDのプログラムはIEP(Individual Education Program)と呼ばれ、年に数回関係者たちが集まって評価の会議をし、報告書を作成する。
日本からの家族はLDの烙印を押されてしまうことを恐れて相談に来ることを躊躇するので、スタートが遅れ、重症のLDになってからスタートすることが多い。何でも早期発見早期治療であり、早くスタートした方が生徒のため、家族のために有利である。

C.コーバン先生
(コーバン先生は英語スペイン語日本語の3か国語を自由にあやつるTrilingual であるが、日本語でPPTを準備してくださり、よどみのない日本語で説明を展開された)。
大部分の高校生はSATとかACTの難関を潜り抜けてやっとアメリカの大学の門をくぐることになる。日本ほどの受験地獄はないけれども、高校生活はやはりプレッシャーが多かった、プレッシャーよ、さらば、うるさい両親よ、さようなら。多くの大学生は親を離れて寮生活に飛び込む。これから自由を満喫できる生活が待っていると胸を膨らませていると、意外も意外、アメリカの大学生は勉強するのである。ホームワーク、クイズ、ペーパー、試験が絶え間なく押し寄せてくる。がんばってストレートAだ、と意気込んでいると、意外なことを耳にする。
コーバン先生によると、専門学科と将来の仕事とは必ずしも関係がないのだそうだ。一番大切なのは(1)就職する仕事の経験、(2)頭がいいだけじゃダメ、人間関係が大切、(3)就職するためにはコネが必要、それも親のコネじゃなくて自分で就職先のコネを築き上げていくのだそうだ、(4)それには学生のクラブに入ったり、インターンシップをしたり、(5)ときどきお酒を飲みすぎて話題になる、大学内のフラターニテーとかソロリテーとか言う秘密結社みたいなものも社交性を養うのに役にたつそうである、(6)こんなことをやっていたらアルバイトなんかできそうもない、そのとおり、アルバイトは原則的には高校生のためである、(7)仕事探しは大学をはじめ各地で開かれるJob fares などで情報を手に入れる。(8)アメリカの大学は最初から就活が影のように付いて回る。「就職活動は卒業まじかになってから」では遅いのです。 今回のセミナー出席者の中に「私もインターンから就職しました」と経験を話された方がおられました。またセミナーの数日後、私のアメリカ人友人に会ったら、娘さんがこの9月に大学に入学したが、すぐにインターンを始めたと喜んでおられた。アメリカの就活はインターンから始まると言っても過言ではないのです。(9)就活がうまくいかなかった卒業者は就職浪人となってしまい、親の家に寄生虫のような存在となる。
コーバン先生は毎日学生たちのこんな相談にのっているので微に入り細に入り、奥の奥まで、裏の裏まで通じている。多くの日本人の親は自分の子供は勉強が得意だから就職間違いなし、と信じ込んでいるからコーバン先生のお話はたいへんショックでした。でもこれがアメリカの大学生の現実かも。大学に入ったらもう大人だから自分でやれるはず、やるべき、と信じていると意外に親のサポートが必要だったりする。アメリカでは早く独立と言うけれど、意外にこんな面があるのです。

終わりに
3人の現職の専門家が用意周到に準備して話してくれたので、内容豊富現実的で充実したセミナーとなり、時間があっと言う間に経ってしまった。出席者の人達からは大変参考になったと感謝された。「もっと聞きたい」との希望がありました。シカゴ日本人会(CJC)は今の時代にあったセミナーをスポンサーをしていると感じました。これだけの講師を準備できるのであるから、CJCはさらに多くの若い世代に同種の教育セミナーを主催し、アップデートな情報を発信する必要があると感じました。
(文責 安納義人CJC会員)