【第288回】キルギス共和国

雪山に向ってハイキング:魅力のアラ・アルチャ自然公園

キルギスの首都ビシュケクから30㎞のところに上高地に似た自然公園がある。車で行けるのは入口から13㎞、アルピニストセンターという登山者の拠点までで、宿泊施設がある。時期によるだろうが日本の上高地より殺風景だ。運転手を待たせて1時間強、雪山を見上げながら渓谷沿いハイキングを楽しんだ。海抜は2000mぐらいか。高度の為か息が苦しい。革靴でハイキングとは我ながら馬鹿げていると思い、引き揚げるタイミングを探した。ワイフは途中で登るのをやめて筆者を待っていた。下山時、アジア人らしき登山客に「こんにちは!」と挨拶したがほぼ返事は返ってこず、中国の若者1人だけ。ウズベキスタンでは街中で出会う人たちから「こんにちは!」を浴びたものだが、親日感の違いだろうか。

ドルを欲しがる超真剣な表情
ビシュケクの空港でタクシーに、予約の宿に10ドルで行くことを約束させた。街はずれの宿で、財布には5ドル紙幣しかなく、残りは20ドル以上の札。別の場所に5ドル札があったかも、と、トランク内を調べようとした時、運転手は私の20ドル紙幣を見た。「それを頂いて10ドル分は現地貨幣の釣りでいいですか?」と聞かれた。どうせ現地マネーに換金しなければならないので彼の提案に従った。彼は10ドルの価値が現地マネーよりの大きいことを知っていたのだろう、この換金チャンスに懸命の表情。旧ソ連圏はドル紙幣の方が自国の紙幣より価値があるようだ。筆者も夕食時に現地マネーがあって好都合だった。

気配り満点の三ツ星ホテル
キルギスでの宿へ。空港から長い田舎道を走り、街並みが現れ、それが途絶えたところにある三叉路を曲がるとやっと到着する不便な場所にあるマイ・ホテル。朝食付きで60ドル、ロシアから未亡人らしきシニアが10日間滞在予定でいるところを見ると不便な場所でも我慢しようか、と決めた。部屋の天井は厚いビニールが張られていて鏡のように寝ている姿が映る斬新な設計だ。新築のこのホテルの窓から見える風景はスレート屋根の継ぎ合わせ。時代に生き残るための電線、電話線、TVアンテナ、煙突、等々、庶民の暮らしが屋根上で賑やかだ。近くの火力発電所の長い煙突から時間によって色の変る煙が吐き出され、ホテルまで届きそうな勢いだ。路地から出てガタガタに壊れた歩道を5分も歩いたらイスラム系の食事処が3軒あり酒類はないが食事にありつけた。
着いた翌日はVictory Dayだった。イヴェントに満ちた楽しいお祭りと聞き、タクシーは外で拾う方が安いと言われてホテル前で立っていたら、通りかかったパトカーが、「日本人?お祭りに行くの?どうぞ乗って!」と親切にも同乗させ、会場へ送って頂けた。

独立記念祭
独立記念祭は公園内の広場で行われていた。人の流れに沿って突き当たったところが会場、群集が群がっていた。祭りの催しは既に始まっており、周辺には整理の警官群や軍隊の閲兵式が見え、音楽隊による華やかな行進曲が聞こえた。左側の会場では玄人の曲芸のような催しが見えたが混んでいて近づけなかった。家族連れが多く、異常な混雑だ。混雑の中でワイフと離れ、その辺で待つより仕方なかった。動けば迷子になる場所だ。20分は待ってようやくワイフと会えた。事前の打ち合わせをしていなかったので動かないのが正解、旅慣れているだけに感は働いたが、とんだ体験だった。帰りの歩道は出店で満ち、その間を往来する人々で大混雑、人を見るために祭に行ったようなものだった。祭そのものはひと昔前の日本と同じ情景、異なるのはだだっ広い荒野での出来事、ということだけ。

祖先に遭えた旅だった!
旧ソ連邦から独立した国を歴訪して10カ国目だ。キルギスはスタンの呼び名が付く国の中でもノスタルジックだ。移動はバスしかなかったが、短期間の旅は足の便がなくては不便だ。この国の旅で救われたのは、日本人の祖先に遭った?ことだ。ホントに、「おばちゃん!」「おじいちゃん!」、と呼びたくなるほど日本人によく似た顔の人々に会い、ひとしお親近感を感じたが、彼らの表情はいつまでも懐かしい。

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(時計回り)My Hotelの窓から見える、多色の煙を吐く煙突。天井に写った寝床。Victory Dayのお祭り風景。さあ、あの白い山を目指してハイキングだ!

文・写真/小川律昭

筆者プロフィール
<小川律昭(おがわただあき)> 86歳
地球漫歩自悠人。「変化こそわが人生」をモットーとし、「加齢と老化は別」を信条とし、好奇心を武器に世界を駈け巡るアクティブ・シニア。オハイオ州シンシナティと東京、国立市に居所を持つ。在職中はケミカルエンジニア。生きがいはバックパックの旅と油絵。著書は「還暦からのニッポン脱出」「デートは地球の裏側で!夫婦で創る異文化の旅」。

<小川彩子(おがわあやこ)>80歳
教育学博士。グローバル教育者。エッセイスト。30歳の自己変革、50歳過ぎての米国大学院博士過程や英・和文の著書による多文化共生促進活動は泣き笑い挑戦人生。「挑戦に適齢期なし」を信念とし、地球探訪と講演・発表の日々。著書は「Still Waters Run Deep (Part 1) (Part 2)」「突然炎のごとく」「Across the Milky Way: 流るる月も心して」ほか。
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